慢性腎臓病は、腎臓の機能が悪くなったりタンパク尿が出たりする病気です。
慢性腎臓病は生活習慣病といわれる糖尿病や高血圧に関連した病気です。近年では患者が著しく増加し、成人では8人に1人が慢性腎臓病であるといわれています。
また、病気が進行し透析治療や腎移植が必要になる患者も少なくありません。慢性腎臓病の進行を遅らせるには、早期に適切な治療を受ける必要があります。
本記事では、慢性腎臓病の症状や治療法について解説します。
最後まで読むことで、この病気を理解しやすくなりますよ。
慢性腎臓病とは?
慢性腎臓病とは、腎臓の障害または機能の低下が3ヶ月以上持続している病気です。
腎臓には、フィルターのような性質があります。血液を濾すことで体内の水分を調節し、老廃物を尿として排泄する機能が特徴です。
しかし、腎臓に障害が起こりフィルターの機能が低下すると、老廃物や余分な水分が排泄できなくなり、体にたまってしまいます。
また、慢性腎臓病は糖尿病や高血圧、喫煙などの生活習慣と関連性が高い病気です。進行を予防するには、食事管理や適度な運動、禁煙などの規則正しい生活が重要になります。
さらに、早期発見や早めの治療開始で、症状や検査異常が消失した「寛解」という状態になる場合もあります。
※寛解とは、全治とまではいかないが、症状が治っている状態
慢性腎臓病の原因
慢性腎臓病の原因は、炎症が起こる腎臓の部位や腎臓病の原因によっていくつか種類があります。
主な原因は、以下のとおりです。
原因 | 特徴 | 症状 |
慢性糸球体腎炎 | 腎臓の中の糸球体という血液から尿を作る部分に炎症が生じている | ・血尿・蛋白尿 |
糖尿病性腎症 | 高血糖の状態が長く続くと腎臓に影響が出る、糖尿病の合併症の1つ | ・初期は無症状 |
腎硬化症 | 高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化が起こる動脈硬化で血管が固くなり、内壁にコレステロールが溜まり血液の流れが悪くなる | ・自覚症状を感じにくい ・高血圧に伴う頭痛や動悸、肩こりなどを感じる程度 |
多発性嚢胞腎 | 左右2つの腎臓の中に水が溜まった袋がたくさんできて、腎臓の機能を障害する状態遺伝性の腎疾患 | ・血尿 ・側腹部痛 ・背部痛 ・疲労感 ・発熱 ・浮腫 ・頭痛 ・嘔気 ・腹部が張って苦しい |
他にも薬による腎臓の機能障害や、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が障害を起こす腎アミロイドーシスなども原因になる場合があります。
参考:北海道医療センター
慢性腎臓病の症状
腎臓病には、初期症状に気づきにくいことが特徴です。しかし、病気が進行するにつれていくつかの症状が現れます。
慢性腎臓病の主な症状は、以下のとおりです。
- 貧血
- 倦怠感
- 浮腫
- 息切れ
- 食欲低下
- こむらがえり
- かゆみ
- 夜間の頻尿感
- 吐き気、嘔吐
これらの症状は尿毒症といいます。
採血では「クレアチニン」や「尿素窒素」という値が高くなり、尿として出るはずだった不要物が体にたまっている状態を調べます。
しかし、初期の慢性腎臓病は無症状のため、多くの患者・家族は慢性腎臓病の発症に気づきにくい点が問題です。
また、薬の服用や食事制限を途中でやめると、腎臓の機能が急激に低下してしまうため処方どおりに服用しましょう。
慢性腎臓病の特徴
慢性腎臓病は完治しにくい病気であり、腎不全を防ぐために進行を遅らせることが必要になります。
慢性腎臓病の初期から日々の食事管理や、運動習慣など生活習慣を正すことで症状を落ち着かせることが可能です。
慢性腎臓病の進行
慢性腎臓病が進行すると、慢性腎不全という腎臓がほとんど働かなくなる段階まで低下します。尿量には個人差があり、減る人やまったく出なくなる人もいるでしょう。
さらに進行すると腎臓の機能が90%以上も失われ、末期腎不全という状態になります。また、末期腎不全では、生活習慣や残った腎機能に応じて、血液透析・腹膜透析・腎移植といった治療法から選びます。
この血液透析や腹膜透析は、体に溜まった余分な毒素や水分を抜く治療です。
腎臓の働きの一部を代わりに行う治療のため、慢性腎臓病を根本的に治す方法ではありません。
腎臓の残った機能や症状に応じて治療内容を変更できるよう、定期的な通院や透析治療が必要となります。
慢性腎臓病の治療法
慢性腎臓病の治療は大きく分けて以下の3つがあります。
- 薬物療法
- 食事療法
- 腎代替療法
薬物療法
腎臓病を治す薬はありません。 薬物療法は、症状の進行や合併症の予防、症状を和らげる目的で使用されます。
使われる主な薬剤は以下のとおりです。
- 降圧薬
- 利尿薬
- リン吸着薬
- カリウム吸着薬
- エリスロポエチン製剤
主な薬剤 | 目的 | 商品名 |
降圧剤 | 血圧を下げる薬適切な血圧コントロールで病気の進行を防ぐ | ・トランドラプリル ・テモカプリル ・アダラートなど |
利尿剤 | 腎機能の低下で体内からリンを排出できなくなると体に余分な水分が溜まり血圧上昇や浮腫が見られる。水分やナトリウムを尿として排泄させるて浮腫や高血圧を改善させる | ・フロセミド ・スピロノラクトンなど |
リン吸着薬 | 腎機能の低下で体内からリンを排出できなくなると、骨が脆くなったり心臓や血管に影響を及ぼす。食べ物のリンを腸の中で吸着し、便とともに排出させる | ・ホスレノール ・キックリン ・リオナなど |
カリウム吸着薬 | 腎機能の低下で体内からカリウムが溜まってしまう。体内にたくさんありすぎると手足のしびれや不整脈の原因となる。腸の中でカリウムとくっつきカリウムを体外へ排出させる | ・ケイキサレートドライシロップ ・ロケルマなど |
エリスロポエチン製剤 | 腎臓がうまく働かないと、ホルモンが出ず血液が十分に作られない。このホルモンを補い貧血を改善させる | ・エポジン ・ダルベポエチンなど |
他にも、足のこむら返りや浮腫など症状に合わせて各種漢方薬が処方される場合があります。
参照:日本腎臓学会「CKD(慢性腎臓病)診療ガイド高血圧編」
食事療法
慢性腎臓病は腎臓の機能が低下しているため、尿で排泄するはずの老廃物が十分に排泄されません。
そこで、食事の管理で腎臓の機能を補い、体に余分なカリウムやリン、水分がたまりすぎないように調節をします。
主な食事療法は以下のとおりです。
- カロリー摂取
- タンパク質の制限
- 塩分の制限
- カリウム・リンの制限
- 水分量の管理
食事療法は、慢性腎臓病の原因疾患や年齢・体格、病気の進行度によっても異なるため、医師や管理栄養士からの栄養指導があります。
腎代替療法
腎代替療法とは、自分の腎臓だけでは補えない末期腎不全の場合に適応される場合が多い治療です。
腎代替療法には、血液透析・腹膜透析・腎移植の3種類があります。
それぞれにメリットやデメリットがあり、医師や看護師からの十分な説明の後、生活や過去の病歴に合わせて選択可能です。
メリット | デメリット | |
血液透析 | ・通院のため医療者のケアが受けらえる・毒素や水分の除去を効率的に行える | ・一生週3回、1回4〜5時間は治療の時間となる ・シャントという血管を作るための手術が必要 ・治療後は疲労感がある ・食事・水分制限が厳しい |
腹膜透析 | ・血液透析よりも水やカリウムなどの食事制限が緩やか・心臓への負担が少ない・社会復帰がしやすい | ・毎日自分で治療を行う必要がある ・お腹にチューブが入ったままの生活になる ・治療期間の寿命がある |
腎移植 | ・透析をしなくても良くなる | ・ドナーの確保が難しい ・手術が必要 ・免疫抑制剤を内服し続ける必要がある |
血液透析
血液透析では、人工腎臓に血液を通すことで血液中の老廃物や余分な水分を除去し、きれいになった血液を再び体に戻します。
血液透析で十分に老廃物を除去するには、1分間に約200mlの血液を取り出す必要があります。
そのため、シャントと呼ばれる動脈と静脈をつなげた太い静脈を手術を上腕に作成します。
血液透析は、基本的に1回4〜5時間、週3回の通院が必要です。
腹膜透析
腹膜透析は、お腹の中に透析液と呼ばれる薬剤を注入し、自分の腹膜を通して血液をきれいにします。
この腹膜とは、肝臓や腸などを覆っている膜のことであり、毛細血管が網目状に広がっているのが特徴です。
まずお腹の中にカテーテルを通し、そのカテーテルを通じて透析液という薬剤をお腹の中に入れます。すると、血液中の老廃物や不要な水分、電解質などが腹膜の毛細血管を介して透析液の中ににじみ出てきます。
この液を体外に排出し、新しい透析液をお腹に入れることを繰り返して血液の中の電解質バランスを整えます。
腎移植
腎移植は、献腎移植と生体移植の2種類があります。これは、家族や他の人の正常な腎臓を移植し、腎臓の機能を回復させる治療法です。
末期腎不全の唯一の根治治療でもあり、10年生存率で90%と透析治療と比較して生命予後が良好とされています。
定期的な受診と治療で腎臓の機能を保とう
慢性腎臓病は生活習慣病と深く関連しており、完治は難しいですが、適切な予防や治療により腎臓機能の低下進行を遅らせることができます。
初期は症状に気づきにくいものの、進行すると貧血や倦怠感、浮腫などの症状が現れる可能性があります。
適切な食事管理や薬の服用を続け、定期的な受診を行うことで、腎臓の残存機能を維持することが大切です。
腎臓病の疑いがある方はぜひ本記事を参考にしつつ、かかりつけ医や腎臓専門医に相談し、適切な検査や処置を受けるようにしてください。
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